ブラボーなステージ 5
つづき
劇場の入口近くには小説にちなんだフォトゾーンも。机の上には 「仕事の喜びと哀しみ」 のケビンが好きなレゴも。
ファイルの背には 『仕事の喜びと哀しみ』 8篇のうち今回の演劇に使われた6篇のタイトルが(「助けの手」「やや低い」 以外)。
入場時はチケットとともに(コロナ対策用の)問診票も提出。著者のチャン・リュジンさんも観にこられていたので一緒に中へ。どの上演回も客の入りがよかったそうで、この日も間引き席以外は満席だったそう。
リーフレットの中にはキャストや練習風景、劇中に登場する用語の説明などが紹介されていた。
短編6篇を演劇にして100分で上演するということで、いったいどんな感じになるのだろうと思っていたが、非常にうまく構成された舞台だった。1篇ずつ順に上演するのではなく、6篇全部をいったんシャッフルしてからまた組み立てるような感じ。たとえば 「俺の福岡ガイド」 のジフンが、「幸せになります」 の主人公とクジェの同僚という設定になっていたり。全体がうまく融合していた。
最初はタンペレ空港で主人公が老人ヤンと出会う場面から。複数のストーリーを並行して進行させるので場面転換が多めだが、いかにも 「転換しています」 な感じではなく、転換自体も一つの見せ場のようにしていておもしろかった。
一人二役の役者さんも複数いたが、どの役者さんも非常に素晴らしい演技だった。以前、「仕事の喜びと哀しみ」 がドラマ化されたとき、デービッド役の男性が私のイメージより若くてイケメンだったので意外な感じがしたが、この演劇の役者さんは私のイメージしていたデービッドに近かった。間近で見たくて前のほうの席にしたので、役者さんの表情まではっきり見えた。
演出も演技もパーフェクトで、想像をはるかに超える素晴らしいステージだった。いったいどれくらい練習を重ねたのだろう。完璧な仕上がりだった。関係者の皆さんの努力に敬意を表したい。ブラボー!
翻訳を担当した小説の演劇を著者と同じ空間で観るという、なんとも贅沢なひとときだった。何度も繰り返し読んだとても愛着のある作品なので、舞台を観ながら小説の文章が思い浮かびジーンとした。舞台の余韻と興奮がいつまでも冷めなかった。
つづく
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