2025年04月28日
ミルミョン発祥の店 「内湖冷麺」 9
つづき
角を曲がると、この日の二つ目のお目当て 「내호냉면」(内湖冷麺/ネホネンミョン)の看板が見えた。11時半を回っていたので、ここで昼食をとってから散策を再開することにした。

店の看板も入口も複数あってどこから入ればいいのかわからず、同じタイミングで来たほかの客とともに戸惑うことしばし。


写真左手(▼)の 「내호냉면」 の看板の向かいに待機室があり、中のタッチパネルにスマホの番号を入力して通知を待つ仕組みだった。あとでよくよく見たら、壁にそう書いてあった。


だがそのタッチパネルの調子が悪く、うまく作動しない。結局店員さんを呼んで直してもらった。ほどなくスマホに通知が届き、店内に案内された。このときも満席ではなかったが、どうやら、ホールが2~3カ所あって来店客の管理が難しいため、空席・満席にかかわらず、タッチパネルで 「受付」 をしているらしい。
この食堂はミルミョン発祥の店として知られ、ミルミョンを語る際には必ず登場する店だ。代々受け継がれ、現在、四代目が代表を務める。初代の이영순(イ・ヨンスン)さんは1919年、現在の北朝鮮咸鏡南道興南区域内湖里で 「동춘면옥」(トンチュン麺屋)という店をオープン。娘でのちの二代目となる정한금(チョン・ハングム)さんが店を手伝っていた。
店は繁盛していたが、1950年6月に朝鮮戦争が勃発。初代イ・ヨンスンさんは、娘のチョン・ハングムさん一家(夫유복연=ユ・ボキョンさん、息子유상모=ユ・サンモさん)やほかの子ども4人とともに12月、アメリカの輸送船に乗って避難する。このとき乗船券が全員分手に入らず、イ・ヨンスンさんの夫は娘婿であるユ・ボキョンさんに乗船券を譲ったため乗れず、それきり生き別れになってしまったという。イ・ヨンスンさん一行は、輸送船が到着した巨済島を経て、釜山に定着した。
1953年3月、牛岩洞でイ・ヨンスンさん・チョン・ハングムさん母娘が、故郷の地名を冠した食堂 「내호냉면」(内湖冷麺)をオープン。56年にはチョン・ハングムさんが二代目代表となる。59年ごろ、韓国初となるミルミョンを開発し、メニューに加える。
チョン・ハングムさんの息子ユ・サンモさんと1975年に結婚した이춘복(イ・チュンボク)さんは、結婚後すぐ店を手伝うようになり、やがて78年に三代目代表となる。
ユ・サンモさん・イ・チュンボクさん夫妻の息子유재우 (ユ・ジェウ)さんが2000年代半ばから店を手伝うようになり、17年に四代目となる。
という経緯がある。母から娘へ、娘から嫁へ、嫁から息子へと受け継がれていくあいだ、店は開業当時の場所で運営を続けている。釜の位置を動かしてはならない、という二代目チョン・ハングムさんの遺言によるものだそう。


そうした歴史を持つ店のミルミョンは、一般的なものとは少し異なるという。写真を見ただけでも、麺の色や太さが、見慣れたミルミョンとは違うのがわかる。どんな味だろうとワクワクしながら、밀면(ミルミョン・8,000w)と찐만두(蒸し餃子・6,000w)を注文した。注文は各テーブルのタッチパネルで。料金は先払い(食べている途中、店員さんが受け取りにきた)。
壁に、初代、二代目、三代目の3人の女性の写真。

同じく壁に飾ってあったのは、二代目チョン・ハングムさんの夫ユ・ボキョンさんが亡くなる前(2008年)にカレンダーの裏に描いた故郷の地図だそう。1950年に避難して以来一度も戻れなかった故郷の姿は、58年経っても鮮明に脳裏に焼き付いていたのだろう。ユ・ボキョンさんも、妻の一家とともに避難したため自分の家族とは生き別れてしまったそう。

やかんに入ったアツアツのユクス。よくあるものとはひと味違っていた。ショウガが効いていて、あっさりめ。おいしい。

まず蒸し餃子が出てきた。これはよくあるマンドゥ。おいしい。

そしてお待ちかねのミルミョン。麺が太く、色も独特。小麦粉:さつまいものデンプンを7:3で配合した麺だそう。もちもちとコシがあってとてもおいしい。ヤンニョムの味も刺激的でなく、食べやすい。


釜山生活17年、数え切れないほどミルミョンを食べてきたが、これが私たちのベストミルミョンかもしれない。ただ、一般的なミルミョンより器が小さめ。大盛り(9,000w)にしなかったのが悔やまれる。4人で5品(たぶん複数のメニューを組み合わせて)食べている若い男性客を見かけて、なるほどそういう注文の仕方もあるのかと参考になった。
店はアクセスが良いとは言えず、どこかに行くついでに寄る、という位置でもないが、客は続々とやってくる。この日は気温が上がってミルミョンが食べたくなる気候ではあったが、この調子だと夏は相当な行列ができそうだ。
ともかく、大変おいしくいただいて大満足。家から近ければ通いつめるのになと。ソマクマウルのほかの建物と同じく増改築を繰り返したらしく、トイレのある2階からさらに急な階段が伸び、途中にドアがあったりして驚いた。


食べ終えて外に出ると、三代目イ・チュンボクさんの夫ユ・サンモさんが椅子に座ってひと休みされていたので、おいしかったですと伝えた。ニコニコ笑顔で気さくにお話ししてくれた。


내호냉면(内湖冷麺/ネホネンミョン) 本店
釜山市南区牛岩洞189-671 (南区牛岩繁栄路26番ギル17)
(051) 646-6195
営業時間:10:30~19:00
地図 https://naver.me/5YFcvVUf
つづく
角を曲がると、この日の二つ目のお目当て 「내호냉면」(内湖冷麺/ネホネンミョン)の看板が見えた。11時半を回っていたので、ここで昼食をとってから散策を再開することにした。
店の看板も入口も複数あってどこから入ればいいのかわからず、同じタイミングで来たほかの客とともに戸惑うことしばし。
写真左手(▼)の 「내호냉면」 の看板の向かいに待機室があり、中のタッチパネルにスマホの番号を入力して通知を待つ仕組みだった。あとでよくよく見たら、壁にそう書いてあった。
だがそのタッチパネルの調子が悪く、うまく作動しない。結局店員さんを呼んで直してもらった。ほどなくスマホに通知が届き、店内に案内された。このときも満席ではなかったが、どうやら、ホールが2~3カ所あって来店客の管理が難しいため、空席・満席にかかわらず、タッチパネルで 「受付」 をしているらしい。
この食堂はミルミョン発祥の店として知られ、ミルミョンを語る際には必ず登場する店だ。代々受け継がれ、現在、四代目が代表を務める。初代の이영순(イ・ヨンスン)さんは1919年、現在の北朝鮮咸鏡南道興南区域内湖里で 「동춘면옥」(トンチュン麺屋)という店をオープン。娘でのちの二代目となる정한금(チョン・ハングム)さんが店を手伝っていた。
店は繁盛していたが、1950年6月に朝鮮戦争が勃発。初代イ・ヨンスンさんは、娘のチョン・ハングムさん一家(夫유복연=ユ・ボキョンさん、息子유상모=ユ・サンモさん)やほかの子ども4人とともに12月、アメリカの輸送船に乗って避難する。このとき乗船券が全員分手に入らず、イ・ヨンスンさんの夫は娘婿であるユ・ボキョンさんに乗船券を譲ったため乗れず、それきり生き別れになってしまったという。イ・ヨンスンさん一行は、輸送船が到着した巨済島を経て、釜山に定着した。
1953年3月、牛岩洞でイ・ヨンスンさん・チョン・ハングムさん母娘が、故郷の地名を冠した食堂 「내호냉면」(内湖冷麺)をオープン。56年にはチョン・ハングムさんが二代目代表となる。59年ごろ、韓国初となるミルミョンを開発し、メニューに加える。
チョン・ハングムさんの息子ユ・サンモさんと1975年に結婚した이춘복(イ・チュンボク)さんは、結婚後すぐ店を手伝うようになり、やがて78年に三代目代表となる。
ユ・サンモさん・イ・チュンボクさん夫妻の息子유재우 (ユ・ジェウ)さんが2000年代半ばから店を手伝うようになり、17年に四代目となる。
という経緯がある。母から娘へ、娘から嫁へ、嫁から息子へと受け継がれていくあいだ、店は開業当時の場所で運営を続けている。釜の位置を動かしてはならない、という二代目チョン・ハングムさんの遺言によるものだそう。


そうした歴史を持つ店のミルミョンは、一般的なものとは少し異なるという。写真を見ただけでも、麺の色や太さが、見慣れたミルミョンとは違うのがわかる。どんな味だろうとワクワクしながら、밀면(ミルミョン・8,000w)と찐만두(蒸し餃子・6,000w)を注文した。注文は各テーブルのタッチパネルで。料金は先払い(食べている途中、店員さんが受け取りにきた)。
壁に、初代、二代目、三代目の3人の女性の写真。
同じく壁に飾ってあったのは、二代目チョン・ハングムさんの夫ユ・ボキョンさんが亡くなる前(2008年)にカレンダーの裏に描いた故郷の地図だそう。1950年に避難して以来一度も戻れなかった故郷の姿は、58年経っても鮮明に脳裏に焼き付いていたのだろう。ユ・ボキョンさんも、妻の一家とともに避難したため自分の家族とは生き別れてしまったそう。
やかんに入ったアツアツのユクス。よくあるものとはひと味違っていた。ショウガが効いていて、あっさりめ。おいしい。
まず蒸し餃子が出てきた。これはよくあるマンドゥ。おいしい。
そしてお待ちかねのミルミョン。麺が太く、色も独特。小麦粉:さつまいものデンプンを7:3で配合した麺だそう。もちもちとコシがあってとてもおいしい。ヤンニョムの味も刺激的でなく、食べやすい。
釜山生活17年、数え切れないほどミルミョンを食べてきたが、これが私たちのベストミルミョンかもしれない。ただ、一般的なミルミョンより器が小さめ。大盛り(9,000w)にしなかったのが悔やまれる。4人で5品(たぶん複数のメニューを組み合わせて)食べている若い男性客を見かけて、なるほどそういう注文の仕方もあるのかと参考になった。
店はアクセスが良いとは言えず、どこかに行くついでに寄る、という位置でもないが、客は続々とやってくる。この日は気温が上がってミルミョンが食べたくなる気候ではあったが、この調子だと夏は相当な行列ができそうだ。
ともかく、大変おいしくいただいて大満足。家から近ければ通いつめるのになと。ソマクマウルのほかの建物と同じく増改築を繰り返したらしく、トイレのある2階からさらに急な階段が伸び、途中にドアがあったりして驚いた。
食べ終えて外に出ると、三代目イ・チュンボクさんの夫ユ・サンモさんが椅子に座ってひと休みされていたので、おいしかったですと伝えた。ニコニコ笑顔で気さくにお話ししてくれた。
내호냉면(内湖冷麺/ネホネンミョン) 本店
釜山市南区牛岩洞189-671 (南区牛岩繁栄路26番ギル17)
(051) 646-6195
営業時間:10:30~19:00
地図 https://naver.me/5YFcvVUf
つづく