2017年07月09日

最初の住民と原画展 11

つづき

右の男性は、朝鮮戦争当時、9歳で釜山に避難してきて、一番最初に日本人共同墓地(現・碑石マウル)で生活を始めたというマウルの元住民ソル・イブさん(▼)。

「今の峨嵋洞・山上(サンサン)教会のふもとに大型の軍用テントが張られていた。テント中央の通路をはさんで、両側に15世帯ずつ、計30世帯が暮らしていた。暮らしのめどが立った世帯から順にテント生活から “独立” し、共同墓地の上に家を建てて生活を始めた。そうやってマウルができた。当時、家を建てようにも建材がなかったため、墓の囲い石を活用した。囲い石の上に壁と屋根をつけたら、すぐ家になるから。墓と言えば、当時、(日本の)将軍の墓があって、とても立派だったのを覚えている。ピカピカ光っていた」 と当時の様子を語った。

最初の住民と原画展 11

さらに、囲い石でつくった家を、隣接する囲い石を使って拡張するケースもあったという。その場合、斜面に並ぶ囲い石二つをつなげて一つの家にするため、家の中で床に段差ができてしまう。当時はそういう家が多かったが、生活に不便だということで、その後、どの家も段差をなくしたそうだ。今は段差が残る家はもうないが、当時の様子を絵本に残そうと、ヨンアさんはおじいさんの部屋のページに、床の段差を表現した。

ソルさんはまた、「当時は水道もなく給水所で水をもらったが、いつも50mぐらい行列ができていた。水はチョロチョロとしか出ないので、容器にためるのに1人30分ぐらいかかる。だから、水をもらうために夜通し並んだこともある。あと困ったのはトイレ。どの家にもトイレはなく、共用の公衆トイレを使っていた。特に朝は行列ができて、それはそれは大変だった」 と当時の苦労を振り返った。

さて、イ・ヨンアさんは、絵本作家を目指す釜山・蔚山・慶尚南道の若者の集まり 「創作共同体A」 の一員だ。現在の韓国では、絵本を本格的に学ぶにはソウルに行くか、ソウルから講師を招くというのが一般的だが、どちらも費用も時間もかかる。そこで、地元・釜山で絵本作家を志望する人が集まり、一緒に勉強しながら、釜山で絵本を出版しようということになったそうだ。現在、共同体Aにはヨンアさんを含め11人が所属。それぞれが、釜山に関するテーマで絵本を制作している。トップバッターとして出版したのがヨンアさんで、他の10人も年内をめどに順次、出版する予定だそうだ。

ヨンアさんは 「絵本を作る人は普通、自分の話から始めて、家族の話、地域の話・・・と少しずつ広げていくものだと思うが、私の場合はいきなり地域の話を描いたので大変だった。でも、共同体Aのメンバーといろいろ話しながら作業したので、最後までやり遂げることができた」 と話した。

この日は1人欠席されたようだったが、10人がそれぞれどういうテーマで絵本を作っているか、披露された。

最初の住民と原画展 11

マイクを持っているのは、共同体Aを設立し、11人に指導やアドバイスをしている作家のクォン・ヒョクスさん。

最初の住民と原画展 11

「(ソウルだけでなく)地域にも絵本文化の運動が必要だとの思いで、共同体Aの活動を始めた。当初は周囲の人に(やめておけと)とめられたが、11人のおかげで、釜山の絵本文化誕生の瞬間に立ち会うことができて感慨深い」 と話していた。

絵本は記念会の会場でも販売していて、サイン会も開かれた。多くの人がサインを求めていた。もちろん私も。かわいいお化けのイラストとともに、記念のサインをいただいた。

最初の住民と原画展 11

最初の住民と原画展 11

同じ建物内で、絵本 『할라버지 집에는 귀신이 산다』 の原画展があると聞き、のぞいてみた。

最初の住民と原画展 11

最初の住民と原画展 11

最初の住民と原画展 11

ストーリーと同じく絵もとても温かく、思わず微笑むようなものばかり。イ・ヨンアさんのお人柄がにじみ出ているなと。

最初の住民と原画展 11

最初の住民と原画展 11

最初の住民と原画展 11

原画を鑑賞して外に出ると、学習館前で、先ほどのバナナ柄の衣装を着た住民たちが、出し物の練習をしていた。

最初の住民と原画展 11

『할아버지 집에는 귀신이 산다』 の日本語版出版の知らせはまだ入ってこないが、ぜひ実現してほしいなと。
-完-



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